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Wokeな若者たちから絶大な支持を得ている「Blossom The Project」は、メンタルヘルスや社会課題をパーソナルな視点から発信するソーシャルメディア発のプロジェクトだ。自身もZ世代である代表の中川愛が語る、今、社会に求められている情報とはなにか。
自分のうつ病の経験を、社会変化に! Blossom The Project代表の中川愛。【女性リーダーたちの挑戦】
インスタグラムメディア「Blossom The Project」は、世界がパンデミックに見舞われはじめた2020年4月に始まった。投稿を開始してからわずか1カ月のうちに急速にフォロワーが増え、今では6万2000人を超える。若い世代を中心に、これほどにも多くの人をインスパイアし続けているのはなぜか。「Blossom The Project」が取り上げるのは、メンタルヘルスをはじめ、人種やジェンダーの差別、政治、気候変動など、わたしたちが直面するさまざまな社会課題。シリアスなテーマが、柔らかいパステルカラーのイラストとわかりやすい言葉を用いて、日英の2カ国語で綴られている。それら一つひとつの投稿から生まれるのは、フォロワーたちによるリアルな議論だ。それが、個人的・社会的に重要な変化につながることも少なくない。私たちが思う以上に多くの人が、メンタルヘルスや社会問題についての情報を得たり議論できる場を求めていることがわかる。
昨年1月には、社会運動、芸術、文化を融合するメディアプラットフォーム/ウェブマガジン「Blossom the Media」もローンチした。このメディアがユニークなのは、身近な社会問題をテーマとしたアートワークやエッセイなどをオーディエンスから募集し、よりインタラクティブにアイデアを交換し合える参加型のプラットフォームであること。Blossomのファウンダーである中川愛は、現在アメリカの大学で政治学を学ぶ22歳。今年の6月に卒業を控える彼女が、リラックスしたようすでBlossomに込めた思いや自身の未来について語ってくれた。
──中川さんは、日本の高校に通われていた17歳のときにうつ病と診断されたそうですね。振り返ってみて、何がその要因になったと思われますか?
10歳のときにアメリカから日本へと引っ越してきたとき、私は日本語が話せず、漢字の読み書きも小学校1年生レベル。日本の公立小学校に編入したのですが、私は学校で唯一の白人とのミックスだったので、髪色や性格、話し方などみんなと「違う」ことでいじめに遭いました。そのため14歳くらいになると、社会に受け入れられないのはミックスのせいだと、自分の外見にコンプレックスを抱くようになりました。自分が大嫌いで、しんどい思いを抱えながら毎日通学していたことから、ストレスがどんどん積み重なっていきました。
──当時はうつ病のことを知っていたんでしょうか?
日常的にパニック発作を起こしたり、泣き崩れたりしていても、それが精神疾患だとは思っていませんでした。高校では、とにかく周りに認められたいという強い思いから、成績はトップじゃないと満足できず、生徒会にも入り、部活も頑張り、ディベート大会にも参加しました。バイトもしていたし、とにかく寝る時間を削って一生懸命努力していました。でも、そこまでやっても満足できなかったし、自分のことを好きになれませんでした。それでついに燃え尽きてしまったんです。そうなると、人間って本当に動き続けることができなくなるんです。
──診断されたとき、どう思われましたか?
母と話し合って精神科へ行くことになり、医師からうつ病と診断されたとき、本当にホッとしました。それまでは自分の弱さのせいだと責め続けていましたが、初めて「自分が悪いんじゃなくて病気なんだ」と知り、安心するあまり、その場で涙が止まりませんでした。本当に気持ちが楽になりました。
──日本では、メンタルヘルスについてオープンに話すことが憚られるような閉塞感があります。そんな中で、周囲にも自身がうつ病であることを話そうと思えたのはなぜでしょうか?
私の苦しんでいる姿をみて声をかけてくれた友達の存在が大きかったです。苦しんでいる姿を隠す必要はないんだと救われました。それを機に、私もそういう存在でありたいと思うようになりました。
──それが「Blossom the Project」につながるわけですね。
大学のサークルでメンタルヘルスの認知度を高めるイベントや活動に取り組んでいるうちに、「私が孤独感を感じていた高校生のときに、こういう場があれば……」と感じることがあり、インスタグラムやSNSを使って少しずつ発信しはじめたのが「Blossom the Project」のはじまりです。学校では教えてもらえないことをSNSで学べるのは、大きな価値があると感じています。なので、私は私の経験をとことんシェアしていきたい。そうして会話が生まれることで、変化が起きるのだと信じています。
──なぜメンタルヘルスだけでなく、社会課題にも発信する内容を広げていったのでしょうか。
精神疾患の原因は一人ひとり異なりますし、社会経済的背景やアイデンティティなど、とても複雑です。だからこそ、メンタルヘルスの背景にある社会問題についても発信していかないと何も変わらないと思ったんです。そう考えるきっかけとなったのが、Blossomを始めた1カ月後の2020年5月にアメリカで起きたジョージ・フロイド死亡事件と、それに端を発するBlack Lives Matter運動(BLM)の広がりです。当時はまだ日本での発信が少なく、BLMを聞いたことある人はごくわずか。そこから、人種差別や性差別といった問題もメンタルヘルスにつながっているんだということを意識して発信するようになりました。
──発信する上で、どんなことを大事にされていますか?
日英の両方の記事をできるだけ多く読み、情報収集や裏付けに最も時間を割いています。その上で、私の視点を恐れずに入れることを大切にしています。日本の社会では、あたりさわりのないニュートラルな意見が求められがちですが、それでは活発な議論を生むことはできません。そこから変わっていかないと、何も変わらないと思うんです。Blossomの投稿に対して、「リベラルすぎる」「アメリカ的だ」という意見もくるけれど、それに対して「なぜそう思う?」「あなたが正しいと思うことは何?」と返すことで、互いの主張から学び合える環境ができてきていると感じます。一つの投稿からどんな発見や気づきがあるのか、批判が起こるのか。それも含め、活発な“会話”を生むことがBlossomの役割だと思っています。
──この2年間、Blossomがご自身にもたらした変化は?
正直、この2年間でどん底と回復を経験し、私の人生の中で一番成長したんじゃないかなと思うんです。Blossomの社会的な影響力が高まるにつれ、強い責任を感じて当初はコメント一つひとつに返事をしていました。最初の半年間は、リサーチから翻訳、イラストの制作まで全部ひとりで行い、ミスを見つけては急いで作り直しての繰り返し。そんなの全くヘルシーではありません。それに、「私は海外の大学に行かせてもらい、日本とアメリカでの生活を経験し、私にあるさまざまな特権があるからこそ、恩返しをしないといけない。それができなかったら自分は失敗だ」と思っていました。そのプレッシャーに押し潰されて、自分を見失ってしまったんです。
メンタルヘルスについて発信したいのに、自分のメンタルヘルスを保てないのならば元も子もないと思い、’20年の10月からチームメイトを増やしました。私ひとりだけで日本社会を変えようと思うのではなく、熱い思いを持ったたくさんの学生や若者と力を合わせて変えようとする、大きなシフトがありました。
──今、自分のアイデンティティをどのように感じていますか。
高校生の頃は、小さいコミュニティの中で毎日同じ人に会い、同じ生活を繰り返すことが多いがゆえ、そのときの感情が一生続くんじゃないかと思いがちです。でも、大学で海外に引っ越し、日々違う人と出会い、さまざまな文化に触れることで、自分のアイデンティティを「ミックス」や「ハーフ」という言葉に縛られず、「自分で自分のアイデンティティの定義を作ってもいい」と思えるようになりました。今でもアメリカにいるとアジア人、日本に帰ると白人というふうに見られます。でも、自分で自分のアイデンティティをちゃんと理解し発信することで、徐々に自分のパーソナリティや見た目を受け入れられるようになりました。
言葉の持つパワー。
──’20年の1月には、「Blossom the media」という新たなプラットフォームもローンチされました。アートや詩、エッセイなど、作品募集をしているのがユニークですね。
「Blossom the media」は、わたしだけじゃなく、同じような思いを抱える仲間たちのアートワークや文章などを紹介し、そこに込められたメッセージを広めるプラットフォームです。ここからまた新しい繋がりが生まれ、輪が広がっていくのを感じると嬉しくなります。
──中川さんは文章を書くのが好きとのことですが、言葉の持つパワーをどう感じていますか?
私は自分がミックスであることについて悩んでいたときも、日本語と英語という2つの言葉で発信できることは自分の強みだと感じていました。言葉は自分のアイデンティティを主張する上で最も重要なツールです。言葉は表現の幅を広げ、いろんなトピックを深く掘り下げることもできます。たとえそれが、日記の中の自分のためだけの言葉でも、友達とシェアする言葉でも、大きなプラットフォームを通して発信する言葉でも、思いや考えを言語化できれば、自分にも周りにも強い影響を与えることができると思っています。
目標を実現するプランは、あえて立てない。
自分のうつ病の経験を、社会変化に! Blossom The Project代表の中川愛。【女性リーダーたちの挑戦】──将来ロースクールにいくために、今は大学で政治学を学ばれていると。中川さんご自身の今後の展望とは?
大きな目標としては、Blossomで発信しているメンタルヘルスの認知度を高める活動や社会問題について、法律的な立場からアクションを起こすこと。ただ、今年の6月に大学を卒業後、すぐにロースクールに進学するか1年間ギャップイヤーを取るかは、まだ決めていません。以前は、大学卒業後はトップクラスの大学院に進学して、その後すぐに就職しなければ……と囚われていたのですが、今はよりリラックスして考えられるようになりました。自分の人生を見つめ直したときに、自分が幸せじゃないと周りをハッピーにすることはできないし、自分が情熱を注ぎたい活動に注力することもできないと気づいたから。
──中川さんの、自分をハッピーにする方法を教えて下さい!
私は海が大好きで、今も海から徒歩30秒のところに住んでいます。携帯は家に置いて、毎晩ビーチで夕陽を眺めながら1日を振り返ります。そして家に帰り、思ったことを日記に書く。あと、ちょっと落ち込んだりストレスを感じると、友達に電話をします。「何もしない」という時間を無理やり自分のスケジュールに入れ込み、意識的に自分の感情と向き合う時間を大切にしています。
参照: https://www.vogue.co.jp/change/article/women-leaders-meg-nakagawa
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