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新型コロナウイルス感染の影響でうつ症状などを訴える人々が増えている。
経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本国内で不安やうつ症状がある人の割合は、2013年調査の7.9%に対し、2020年には17.3%と約2倍に増加した。
うつは人ごとではない。もし自分や家族、同僚などの近しい人がうつになったとしたら?うつとの付き合い方やうつ当事者との接し方等について、当事者、家族のサポートを行う「うつ卒倶楽部」の砂田康雄さんに話を聞いた。
きっかけは勤め先の倒産うつ当事者と家族をマンツーマンでサポートし、回復まで伴走するうつ卒倶楽部や、「うつの家族の会 みなと」の代表を務める砂田さん。彼もまた、うつの当事者だった。きっかけは勤め先の倒産だ。
「倒産する半年ほど前から人員整理が始まっていて、今から思えばその頃から兆候がありました。気分が落ち気味で、飲み会なども楽しめず笑えなくなった。おかしいな、なんで笑えないんだろうなと自分でも感じていましたが、それがうつに繋がるとは思っていませんでした」
勤めていた会社が倒産してしまうと症状はさらに進んでいく。薬を飲みながら再就職したが状態は悪くなるばかり。ある日、出張先で倒れてしまったことで、苦渋の選択だったが砂田さんは退職を決めた。
自宅療養で医師の言う通り、薬を服用しながら心身を休ませれば、必ず快方に向かうと信じていたが、そこからが長かった。症状がなくなるまでに10年、社会復帰するまでにさらに4年。計14年間、うつと向き合い続けることになる。その間、家計は妻の収入と親からの援助で凌いだ。
5年以上続いた、ほぼ寝たきりの生活「最初のうちは外出もできていましたが、そのうち動けなくなり、ずっと寝込んでいる状況でした。寝たきりのまま症状は上向くことなく、ある意味『ドン底』の状態。それが4~5年ぐらいは続きましたね」と砂田さんは振り返る。
5年ほど経った頃、一向に回復しない日々が続くなかで、砂田さんは自殺を考えて具体的な準備を始めたことがあった。
「その準備をして最後に、家内に『お世話になりました』とメールを送りました。すると仕事中の家内からすぐに返信があり、何度かやり取りした後に『あなた、二匹の犬たちをちゃんと最後まで面倒みるって約束したわよね?』と返信があったのです。
家内はフルタイムで働いていましたから、ここで私が死んだら世話する人がいない。そこで、はっと我に返りその後不思議と気持ちが落ち着いていきました」
この後、砂田さんは自ら「絶対に治りたい!」と思うようになり、本格的に様々な治療に取り組みはじめる。あらゆることを試す中、藁にもすがる思いで真偽不明な治療法にも100万円以上支払ったこともあったという。
そもそも外出さえままならなかった身だ。「どの治療も脂汗をかきながら必死で通っていました」と砂田さんは語る。もがきながら模索する中で幸運にも信頼のおける2人の専門家に出会い、砂田さんの症状は少しずつだが改善して行った。
社会復帰までの4年で行ったこと
症状がなくなったら即、社会復帰ではなかった。「当時の私も、また現在私がサポートしている当事者の方々も、症状がおさまったらすぐに『仕事を始めたい』と言うんです」と砂田さん。しかし就職して社会復帰する前に、まずは少しずつ心身を慣らしていくことがはずせない。
「まずは体力を戻すことです。私自身、家にこもりがちだった期間が10年間もあったので体力が全くなくなっていました。そのためには何が良いかというと『歩くこと』なのです。ただし、うつの人がウォーキングを始める時に大切なのは、一歩外に出みてて調子が悪い時には休むこと。『頑張らなければ』と我慢してやり続けると逆効果なんです」
砂田さんいわく、「うつになる人には、完璧主義な人や、それを目指す人が多い」という。砂田さん自身も昔はそうだった。「無理は禁物、疲れすぎては逆効果なんです。60点くらいの、物足りないくらいにとどめるのが重要です。私ももっともっと頑張らなくてはいけない、と言う気持ちを必死に抑えていましたから」
うつの人の60点くらいは、健康な方にとっては満点に近い。60点くらいで十分だからいかにしてそれを続けて行くかが回復の鍵になり、同時に物事の捉え方の偏りを見直していくこともまた大切になる。
そして体力が徐々についてきたら、次に取り組むのは、生活の中で楽しみを見つけることだという。
「当時私も、専門家から『何がしてみたいか?』と聞かれても、自分で何がしたいかも分からず、専門家の助けを借りて自分の心の内側を掘り起こしていきました。そこでようやく浮かんだのが、学生時代にあきらめたバイクにやっぱり乗りたい、という気持ちでした。それで中古のバイクを買って乗り始めると、本当に楽しい気持ちになれました。
バイクに乗るには体力が必要で、乗るためにはまた体を鍛えようという気持ちになれたものです。回復の為には楽しみは必須で、季節によって、また天候によって楽しみはいくつあってもいい。その中に、体を動かす楽しみがあると気持ちも前向きになり回復には弾みがつきます」
復帰後の仕事を選ぶ際に気を付けること
生活習慣、ものの捉え方を見直して行き、体力も徐々につけていくと次第に外出できる時間も増えていった。ここまで回復して初めて、仕事することを考えたという。
最初は短時間のアルバイトからだった。自身の経験を振り返って、社会復帰のための仕事を選ぶコツは、「人との関わりができるだけ少なく、体を使う仕事がいい」という。
「その仕事で体力をつけながら気力を戻して、それから次の仕事を選べばいいのです」
砂田さんの場合は、企業の社員寮を掃除する仕事だった。
「3階建ての独身寮でした。面接に受かったものの、私は掃除が嫌いだったので最初は絶対に続かない、と思ったんです。でも、まず1日だけ行ってみようか、と思って向かったら結局1年間続いたんですよ。
主に1人で行う仕事だったのがよかった。うつになった人は、人間関係が原因だった方が多い。だから、社会復帰に際しては、この点がとても重要なんです。さらに体を動かす仕事だったので夜はぐっすり寝られました。契約の1年間を全うする頃には、妻も驚く程に体力も気力も次に向けて整ってきた状態でしたね」
その後、砂田さんは妻のくにえさんが、2006年から始めていた「うつの家族の会 みなと」を手伝うようになる。最初の1年間は事務作業などの裏方仕事が中心だったが、徐々に当事者としての経験をその場で語るようになった。
「いくら家族をサポートしても本人が良くならなければ家族も幸せになれない。そのためには自分の経験が役に立つんじゃないかと思ったんです」
この思いから、元うつ当事者としてマンツーマンでサポートする「うつ卒倶楽部」の立ち上げに至ったのだ。
もし家族や同僚がうつになったらうつ状態にある当事者の気持ちは、経験者でなければわからないことも多い。もし家族や同僚がうつになった場合、周囲はどのように接するのが良いのだろうか?
まず、うつから回復した人が同じ会社に復職する場合は「部署の異動や、共に働く同僚を変えてもらうなど環境を整えることが望ましい」と砂田さん。その上で、一緒に働く人々は当事者を「孤立させず、また干渉しないこと」が大切だという。
「『元気?』『困ったことない?』などの軽い声かけをして孤立させないことが大事です。それだけで十分なんですよ。それ以上はかえって本人の負担になるので、深く入り込むようなことは控えたほうが良いです。
ランチや飲み会に行く場合も「『一緒に行かない?』と軽~く誘うだけで充分です。もし断られたとしてもそれ以上は踏み込まない。『一緒に飲もうよ』『たまにはゆっくり話そうよ』などと言われると本人は断ってはいけないのではと考えて、かえって無理させる事にもなりかねません」
一般的によく、うつ症状のある人には「がんばれ」と声をかけてはいけないと言われるが、これについてはケースバイケースだと砂田さんは言う。
「普段からの声かけなどによって安心できる関係性が出来ていれば、仕事上で『がんばれ』と言われる機会がたまにあると、よい刺激にもなります。注意してもらいたいのは、気を使いすぎて腫れ物に触るような扱いになる事。これは孤立につながるので避けてもらいたいです」
より近しい家族がうつになった場合はどうしたらいいのだろうか?ここで大切なのも「家庭内で孤立させないこと」だと砂田さんは言う。
「まず、先ほどと同様に腫れ物に触るように神経質になって接する必要はありません。基本的には健康な人と同じ接し方で構いません。また、家族の場合も孤立させない声かけが大事です。
例えば家庭内にうつ症状で引きこもる子どもがいた場合、手紙でもLINEやメール、電話でもいいから、こちら側からの何気ない軽い声かけをこまめに続けることが大事ですね」
「逆に言うと、家族にはそれしかできないんです」と砂田さんは語る。
「家族ががんばりすぎると余計に引きこもってしまうことが多い。だから、治療には絶対に第三者が必要。ただ、どの場合も本人が受け入れるかどうかです。受け入れるといい方向にむいて行きますが、場合によってはそれには時間がかかることもあると心得た上で、見守ることが大切だと理解しておいて欲しい」
家族自身が、一生懸命に治そうと頑張った結果、共倒れになってしまう場合がある。だからこそ、家庭内で抱え込まず専門家に頼ることが大切なのだろう。
砂田さんは、「家族に出来るのは、本人の生活を支える事。これに尽きます。だから家族は場合によっては長期にわたる事もあると覚悟して、家族自身が心身ともに健康でい続ける事が何より大切だと覚えておいて欲しい」と語る。
自分がうつになった時のため知っておきたいこと
もし自分がうつになった時には「心が骨折したと思ってみて欲しい」と語る。
「例えば足を骨折した場合、その時どうするかといえば『ギプス』を着けますよね。うつの場合にはそれが『休養』なんですよ。安静にしていれば、一定期間ギプスをすると骨がつながります。でも外すと足は全く力が入らず棒のようになってしまうため、『リハビリ』が必要になる。
うつの場合だと、それが散歩になる訳です。身体のリハビリだけでなく、感情も徐々に刺激して気持ちを外に出せるようにしていく。これもリハビリです。リハビリは本人に、結構がんばってもらう必要があります。骨折も自分で動かさないとリハビリにならないでしょう。親などが代わりにすることはできないんですよ、こればかりは本人が自分でやらないと」
治療にも、リハビリにも社会復帰にも本人のタイミングがあり、家族を含め周囲の人はそれをコントロールしたいと思ってもできない。それを知っておくことで、当事者や家族の気持ちは少しでも軽くなるのではないだろうか。
うつを卒業した砂田さんは、うつから本当に回復するということは、ただ症状が良くなるだけでなく、体の基から心身共に健康になって人生を「生き直し」ことだと語る。
「今までの『辛かった』事を振り返る必要はありません。これから新しく生き直す事で、今までとは違った生きやすく、充実した、そして楽しみもいっぱい感じられる人生に変える。それは可能な事です。
これから新しく『生き直す』ことで自分の人生を楽しい方向に舵を取っていくわけです。気持ちの持ち方や物事の捉え方、そして運動や食事など生活習慣を見直して、新しく生き直すことです。ただし大事なのはどれも60点で充分、ということなのです。私は、大変辛い10年以上の毎日でしたが、生き直すチャンスを得られた、今はそう思っています」
参照: https://news.yahoo.co.jp/articles/850d359ce1daf6e3cd415c5f63011ec0f29b165b?page=1
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