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「やっほー! 今日も生きててえらい!」。エメラルドグリーンの大きな瞳の美少女が、画面からこう呼び掛ける。動画投稿サイト「ユーチューブ」でCGキャラクターを使って「Vチューバー」が発信しているのは、統合失調症の患者の体験と日常だ。実体験を明るい語り口で伝え、疾患に対する世の中の否定的なイメージを変えようと奮闘している。(出田阿生)
Vチューバー バーチャルユーチューバーの略。CGキャラクターの姿で動画配信をする人を指す。現在、2万人近くが活動中と言われる。
「もりのこどくちゃんねる」の配信。美少女キャラがつけているピアスは服用している薬のシート
「もりのこどくちゃんねる」の配信。美少女キャラがつけているピアスは服用している薬のシート
◆昨年7月から配信スタート
発信者は「もりのこどく」さん。高校2年で発症し、現在も闘病中の20歳の女性だ。
昨年7月、番組名「もりのこどくちゃんねる」で配信をスタート。「統合失調症でも歯医者さんに行きたい!」「精神科のいい先生の条件とは」などテーマ別に数分間の動画を作った。◆16歳で突然病に
統合失調症は100人に1人がかかるめずらしくない病で、若い世代が多く発症する。脳の働きのバランスが一時的に崩れただけで、適切な治療で多くは回復する。だが、幻覚や妄想といった重い症状のイメージが先行して偏見が根強いことから、病気や患者の実態についての情報が少ない。
こどくさんも、自分が発症するまでは何も知らなかった。進学校で部活を掛け持ちしながら勉学に励んでいた。明るい性格で大勢の友達がいたが、16歳の時、突然病に襲われた。◆Vチューバーの動画見ているときだけは
「24時間、逃げられないホラーゲームの中にいるようだった」と振り返る。「死ね」という幻聴が聞こえ続けて、何度も死のうとした。包丁で自分を刺そうとし、ベランダから飛び降りようとした。家族は一時も目を離せなくなった。
「死ね」と脅す声は、Vチューバーの動画を見ている時だけはなぜか消えた。症状の悪化で文字が読めなくなっても、明るいキャラクターが単純な会話をする短時間の動画は視聴できた。ただ、病気に関する情報が切実に欲しかったのに見つからなかった。入院や服薬で症状が改善した後、「Vチューバーなら患者さんや家族に情報を届けられる」と思い立った。
配信で自身の体験を説明する時は必ず「こどくの場合」と断りを入れる。「暗くて怖い」イメージを変えるため、常に明るく語りかける。◆自分や周囲を責めないで
「どんな人がなるのか」には「誰でもなる可能性がある」「なっちゃった人は自分や周囲が悪いわけではないとわかってほしい」。家族は「病気だから仕方ないよ」と、こどくさんを責めなかった。そんな周囲の対応がうれしかったことも伝える。
こどくさんは、今も家族や友人の付き添いなしで外出できない。再発の不安を抱えながら懸命に日々を送る。だからいつも配信の最後は、視聴者と自分に向けてこう締めくくる。「生きててくれてありがとう、またね!」
動画は、ユーチューブの「もりのこどく」で検索。
統合失調症 脳の統合機能が一時的に損なわれる病気。幻覚・妄想などの陽性症状、意欲低下などの陰性症状、認知機能障害などが表れる。10~30代に多く発症。日本での患者数は約80万人といわれ、統計に表れない未受診患者を含めると、さらに多いと推測される。
自身もユーチューバーとして医療者の立場で情報発信する精神科医の松崎朝樹さんの話
統合失調症に対する偏見が、患者の社会参加を阻んでいる主因だ。治療で大半が改善するのに、一過性の重い症状や、重症で難治のケースが切り取られがち。当事者が体験や日常をネットで発信することで「精神疾患の症状があるだけの一個人」として理解が進めば、バリアフリーにつながる。
患者や家族にとって、同じ病に悩む当事者の意見をネットで得られるのは有用だ。発信する当事者も他者との交流によって回復が促され、治療的な意味を持ち得る。参照: https://www.tokyo-np.co.jp/article/157472
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