うつ病は、抑うつ気分や意欲の低下、不眠・食欲不振などが現れ、日常生活に支障をきたす精神疾患です。通常は薬物療法と休養が効果的ですが、適切な服薬と休養を一定期間続けても効果が表れない場合「治療抵抗性うつ病」に該当するとされます。日本における治療抵抗性うつ病患者は、うつ病全体(推定695,000人)の約3割の約208,500人と推定され、社会全体にとっても大きな問題です。
九州大学大学院医学系学府の三笘良大学院生、大学院医学研究院の田村俊介特任助教、九州大学病院精神科神経科の平野羊嗣講師らの研究グループは、佐賀大学医学部附属病院精神神経科の立石洋講師と門司晃教授らとの共同研究において、治療抵抗性うつ病に対する反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS)(※1)治療後の抑うつ症状や認知機能の改善に一致して、脳活動が変化することを、通常診療で用いる脳波計を用いて明らかにしました。
本研究では、rTMS治療後に、磁気刺激部周辺では高周波の神経振動の出現量(パワー)が増加しただけでなく、刺激周辺部から他の領域への機能的結合(※2)も増加することを明らかにしました。これはrTMS治療により、うつ症状が改善するだけではなく、うつ症状の背景にある脳内の神経ネットワークも改善したということを意味しております。また、先行研究では、コストのかかる脳磁図計や高密度脳波計を利用していたのに対し、本研究ではより簡易な方法でrTMS治療後の脳活動の変化を評価することに成功しました。本研究の結果は、rTMSの効果に神経生理学的な根拠を与えるだけでなく、脳波計測と組み合わせた適切な治療プロトコルの構築に寄与するものと考えられます。
この研究成果は、2022年1月3日に、米国医学雑誌 『Journal of Affective Disorders Reports』 オンライン版に掲載されました。また、本研究は、JSPS科研費(【JP20K07974・JP21H02851】)および、国際共同研究加速基金(【JP20KK0193】)の支援により行われました。
参照: https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/711