-
投稿者投稿
-
-
wasinton参加者
米国食品医薬品局(FDA)は、ナスダックに上場するドイツのバイオ医薬品企業「アタイ・ライフ・サイエンシーズ」が、治療抵抗性うつ病に対する非サイケデリック型ケタミンの臨床試験を実施すること許可した。アタイ社が1月12日に発表した。
同社は、FDAが承認した解離性麻酔薬であるケタミンのR体を研究する。ケタミンは、全身麻酔に使用されるほか、うつ病の治療薬としても適応外使用されている。
R-ケタミンが期待されるのは、サイケデリックな体験をもたらさない一方で、迅速な抗うつ効果を発揮することだ。臨床試験でその効果が証明されれば、R-ケタミンは、治療抵抗性のうつ病患者のための新しい薬となり、FDAが承認した別の薬のSpravatoのように医師の監督下でクリニックで使用するものではなく、自宅で安全に使用できるものになる。
アタイ社が過半数を保有する子会社のパーセプション・ニューロサイエンス社は、R-ケタミンに関する臨床試験を米国で開始する。
アタイ社は、ピーター・ティールの支援を受けて、ナスダックで上場している企業だ。同社の共同創業者でCEOのフロリアン・ブランドは、臨床試験でR-ケタミンの安全性と即効性が確認できれば、「うつ病に悩む人々にとって画期的な事になる」と語っている。
パーセプション社は、すでに海外でR-ケタミンに関する2つの試験を開始しており、ニュージーランドで実施されたフェーズ1の試験では、PCN-101(R-ケタミンの開発コード)がすべての用量で「安全かつ良好な忍容性」を持つことが確認された。
試験の第2段階では、PCN-101とSpravatoの主成分であるエスケタミンとを比較した。その結果、PCN-101は過剰に摂取しない限り、エスケタミンに見られるようなサイケデリックな体験を誘発しないことが明らかになった。
パーセプション社はまた、9月に欧州において、治療抵抗性うつ病患者を対象としたプラセボ対照二重盲検試験の実施を承認された。この試験で同社はR-ケタミンがうつ病の症状を軽減する上で安全かつ有効であるかどうかを検証し、2022年末まで結果を出す予定だ。
パーセプション社のテレンス・ケリーCEOは、R-ケタミンの研究が規制当局の手続きを経て進行していることに勇気づけられているという。「PCN-101は、その有効性と投与のしやすさの両面で、臨床医や患者らにメリットを提供できる可能性がある」とケリーCEOは声明の中で述べている。
大塚製薬も市場投入目指すR-ケタミン
アタイ社の最高科学責任者のSrinivas Raoは、同社が追求している多くの医薬品にとってサイケデリックな体験は重要であるが、R-ケタミンの場合は特に、サイケデリックな体験を引き起こさない点が、治療抵抗性うつ病の治療に画期的な変化をもたらす可能性があると述べている。
「家庭で使用できるかどうかが重要だ」とRaoは話す。「私たちが注目しているシロシビン(サイロシビン)のような化合物は、医師の監督下での投与が求められる。しかし、もし家庭で投与できる即効性のある薬があれば、より大きな市場をターゲットにできる」
大手の製薬会社は、すでにR-ケタミンに関心を持っている。2021年3月、大塚製薬は、パーセプション社のR-ケタミンを、治療抵抗性うつ病の治療薬として日本で開発・商業化するために2000万ドル(約23億円)を支払うことを発表した。大塚製薬は、パーセプション社が開発する「アールケタミン」の日本国内における独占的開発販売権を取得し、市場への投入に成功した場合、売上に応じたロイヤリティをパーセプション社に支払うことになる。
うつ病の処方薬の売上高は世界で年間500億ドルとされ、メンタルヘルス市場は年間約1000億ドル規模とされている。世界には1億人の治療抵抗性うつ病患者がいると推定されており、プロザックやゾロフトなどのセロトニン再取り込み阻害薬を置き換える可能性のあるアールケタミンには大きな市場が期待できる。
「私たちが興味を持っているのは、まだ満たされていない巨大なニーズやその市場だ」と、アタイ社のブランドCEOは述べている。
アタイ社はまた、マジックマッシュルームに含まれる幻覚を引き起こす成分のシロシビンを用いたセラピーを開発中の英国企業Compass Pathwaysの最大の出資元でもある。Compass社は、シロシビンを用いた特許取得済みの薬剤を、うつ病の治療に役立てようとしており、昨年11月にはこの薬剤を投与された患者に抑うつ症状の大幅な軽減が確認され、その効果が数週間に渡り継続したという臨床試験結果を発表した。
「2時間のトリップ」が特徴の新薬
アタイ社はさらに、別の子会社を通じて、従来の幻覚剤よりも幻覚作用が短い「2時間のトリップ」を特徴とする新世代のサイケデリック医薬品を開発している。
ブランドCEOは、サイケデリックな体験を伴う治療法は、幻覚作用の長さが一般に普及させる上での障害になっていると話している。「トリップを短くすれば、より多くの患者が治療を受けられるようになり、保険会社も積極的に治療をカバーするようになるはずだ」と、彼は話す。
ブランドをはじめとするサイケデリック医療に携わる多くの人々は、“ノー・トリップ・トリートメント(幻覚を伴わない治療)”がこの分野の将来に重要な位置を占めると考えている。
「私たちは、精密精神医学(precision psychiatry)のビジョンを持っており、最終的には、患者ごとに最適な治療法を見つけ出したいと考えている。すべての人がシロシビンのようなサイケデリック薬を使いたいとは限らない。ある人にとっては適切な治療法かもしれないが、すべての人に使用できる訳ではない」とブランドは話した。
アタイ社の最高科学責任者のRaoは、「未来は選択肢の中にある」と話す。治療抵抗性のうつ病患者に効果のある薬を見つけることは困難で、うつ病患者の約30%は、既存の治療法では効果が得られないと言われている。そんな中、アールケタミンが承認されれば、医師が使用できる新たなツールになる。
「病気のプロセスのどこにいるかによって、エスケタミンが必要になるかもしれないし、シロシビンやDMTなどの薬剤と組み合わせて、アールケタミンを用いることが有効かもしれない。しかし、すべてはまだ研究途上だ」とRaoは話した。
参照: https://forbesjapan.com/articles/detail/45450/1/1/1
-
-
投稿者投稿